「プロセス・アイ」(茂木健一郎著)2006/02/07 08:17

 この小説は、様々な人物や、場面が交錯しながら、構成されている。舞台も、世界をまたにかけた、非常にスケールの大きい小説である。

 その中で、上海で巨額の資金を調達し、その金を使って脳の研究や、国際政治にもからんでいく日本人が描かれていく。まさしく今ちょうどライブドア事件があったりして、多額の資金を得ることによって、人は何をなさんとするのか・・・みたいなことを、面白く読めたというおまけもあったかな。

 ライブドアの堀江容疑者は、宇宙事業にも興味を持っていたというので、この小説の最後が、宇宙船に乗って月を回るところなんかは、なんだか重ねて読んでしまった。
(それは必ずしも書き手の意図には沿わないものなのかもしれないけれど、そこが同時代性の面白さなのだと思う)

そして小説ならではの面白みは、やはり登場人物たちの対話である。
普通のほかの小説よりも、一人の人物の会話は長く、論理的に色々な物事について、長々と説明が続く。それに対する反論もまた、同じように長い。
 最後のほうに出てくる宗教家との対話は、殊に私には面白く感じられた。

 ジャンルとしては、SFといえば、まぁそうなんだろうけれども、人間が変なグロテスクな脳のお化けに変身してしまうのかと思うと、自らの意思で元の姿に戻っていって、そこでの苦悩があったりする。
また、いわゆるアンドロイドなのかと思うと、まぁ一応は普通の人間だったりと、変なSF的暴走を避けていたところにも、ちょっとほっとした。

 ラストも、破滅的なのかと思っていたが、少しは明るさを見せた終わり方だったように思う。

 難を言えば、主人公(と言えると思うのだが)のグンジ・タカダが高木千佳という女性を、かつて愛したと言い、それが様々な事柄の動機にもなっているのだが、その部分がどうも説明的で、彼が「愛していた」という言葉以上のものは、小説からはあまり読み取れないのが残念と言えば、そう。

 むしろ千佳にハワイで最初に出会っていたツヨが千佳を思う初恋みたいな気持ちの方に、より読者は共感できるのではないかと思う。ツヨという人物は、読んでいてとても安心できるキャラクターで、この小説の中では、一番うまく描ききれた人物のように思う。ゲイという設定も、妙にツボにはまっていたのかもしれない。

  その他、さまざまな愛がこの小説の中では、交錯して描かれているのだが、考えると、どれも説明的。もう少し枚数をさいてエピソードを重ねていけば、より小説世界の幅が広がったのではという点が少々残念といえばそうかな。

 色々難癖はつけたものの、国際派の茂木さんならではの知識と経験、構成力、想像力、脳科学を駆使して書かれた、この処女小説は、一気に読み終えたことから考えても、非常に面白い作品だった。
よく、この長さで、これだけ色々なことを盛り込んで完結していると驚いてしまうぐらい。

 またこれからも小説を書かれるのかどうかは、分からないが、次作に期待したい。
最近はテレビの露出度が多いようなので、小説を書く時間が取れるかどうかが、最大の問題かもしれないけれども・・・。
是非、がんばってください!!