「星の王子さま」再読2005/11/26 08:17

 おくればせながら、新訳ラッシュの「星の王子さま」を池澤夏樹訳で読んでみた。
文庫と単行本と両方出ていて、ちょいと節約して文庫本を買ったので、イラストは白黒だった。これはちょっと惜しかったかも。

 新訳で読み直してみると、意外とすんなりと頭に入っていく。
今回、一番印象に残ったのは、黄色いへび。

 子供の頃、読んだときには、へびは、悪いやつというイメージがあった。
昔、通っていたキリスト教の幼稚園でも、イブに神様から禁じられた、りんごを勧めたのは、へびだと習っていたからかもしれない。
(作者もその辺のへびの狡猾なイメージはうまく用いたのだとおもうけれど)

 今回読み直してみると、へびは、王子さまをかんだところで、別に王子さまを食べるつもりではなかったのかなと思った。
だってかまれたあと、王子さまは、砂漠に静かに音もなく倒れていたのだもの。飛行士もそれを見ている。へびに飲み込まれたりしていたわけじゃない。

 王子さまは、どうしても自分の故郷の星に帰りたかったのだ。
残してきた我儘な、それでいて一人ぼっちのバラの花がとても心配だったし、バオバブの芽が生えてきてしまうことも懸念していた。小さいうちにつみとっておかないと大変なことになっちゃうから。
だけど帰るには、体がちょっと邪魔だったわけだ。大きすぎたのだ。

 それで、へびは、困った時には、手伝ってやるよ、と最初に会ったときに言う。王子さまが一人でとても寂しそうだったから。

 王子さまは地球で、きつねや、飛行士なんかと、いい友達になるんだけれど、自分の星に帰るのを手伝えるのは、やっぱり、へび以外にはいなかった。

 王子さまは、へびにかまれ、ちょっとだけ痛い思いをして、でもあっという間に毒が回って、それでやっぱり死んでしまった・・・んだろうな。
そして死んで自分の星に帰ったということなのか。
・・・と、子供の頃に読んでから何十年ぶりに読み返して、こんな事実に初めてはたと気付いてしまった。

 死んだように見えるけど、死んだわけじゃないと、事前に王子さまは飛行士に説明する。そしてその言葉を裏付けるように、朝になると、王子さまの身体は砂漠から消えていたのだ。

 こんな終わり方を、子供の私は文字通り受取るしかなくて、じゃあ王子さまは、本当は一体どうなっちゃったの?と、最後のページの続きが知りたくて、知りたくて、ずっーと今まできたのだった。

 でも、やはり、王子さまの言うように、死んだんじゃなくて、本当に体ごと、故郷の星に帰れたのかしら。
 大人になって読み返してもやっぱり結末の詳細は分からない不思議な話だった。
 へびは、そんなに悪いやつじゃなかったのかも、という気はしたのだけれど。

 それとも、やはりへびは悪いやつで、夜の間に王子さまを食べてしまったのかしら。それで飛行士が朝見たときには体がなかったのか?
(そもそも、へびは人を食べるのか?ちょっと前にテレビで、大へびと大ワニが双方かぶりついて飲み込み合い、お互いの腹が裂けて死んでいたという壮絶な映像を見たけれど)

 もしそうだとしても、星になって自分の故郷に帰って行けたからいいのかな。
でも、そういう帰り方を頭で納得していた王子さまは、どんなに物語で無邪気に描かれていても、やはり子供とは言えないような気がする。
それとも子供だからこそ、へびの甘言にやすやすと惑わされてしまったのか。

 「大事なことは、本当は見えないんだよ」と、きつねが言うメッセージはとてもよく伝わる。あと飛行士が絵に描いてくれた箱だけの絵を見て、王子さまが
「(中にいる)ひつじが寝ちゃったよ」と言うのも、想像力ということで今回は簡単に解決できたんだけれど。

 何でもそうだけれど、きっと答えはひとつだけじゃなくて、幾通りもあるってことなのかな。訳知り顔でこの結末を説明するわけにはやはりいかなかったことだけは確か。

 私にとっては、新訳をもってしても、難しい・・・、けれど不思議な魅力を感じる本。
 また、忘れた頃に読んでみたい一冊。